静岡・山梨地区のテレビ・ラジオ各局との意見交換会を開催
放送倫理検証委員会は11月28日、静岡・山梨地区のテレビ・ラジオ局9局24人と意見交換会を開催した。委員会からは小町谷育子委員長、岸本葉子委員長代行、高田昌幸委員長代行、水谷瑛嗣郎委員が出席した。大日向雅美理事長は「ソーシャルメディアと選挙報道」「番組と広告の識別」という2つのテーマについて「放送が信頼されるメディアであり続けるための重要課題だ」と位置付けた。小町谷委員長は、静岡放送制作『無限の檻~袴田巖さんと再審~』が日本民間放送連盟賞のテレビ・グランプリを受賞したことに触れ、死刑冤罪問題を広く問いかけた意義を評価。そして今回のテーマを通じて現場の悩みや疑問を共有し、解決の糸口を探る場にしたいと期待を述べた。
第1部は「ソーシャルメディアと選挙報道~DPFの正体を知ること」をテーマに水谷委員(慶應義塾大学准教授)が基調講演した。現在、報道はソーシャルメディア上で消費されることが増加し、情報流通の経路を握るDPF(デジタルプラットフォーム)事業者は、アルゴリズムによるレコメンドやコンテンツモデレーションで情報を選別・削除する。これは国家に匹敵する力とも言われている。アメリカの法学者ケイト・クロニックは彼らを「ニューガバナー=新たな統治者」と指摘した。
日本の最高裁の判決でも、グーグル検索は「情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と認められる一方、ツイッター(現X)は「情報入手の手段を提供する」としか位置付けられていない。「国民の知る権利に奉仕する」という言葉は報道機関には使われても、プラットフォームには使っていない。つまり最高裁が両者を区別していると話した。
プラットフォームの第一義的役割はユーザーの「知りたい」を満たすこと。検索エンジンやソーシャルメディアはユーザーの好みを予測して表示順を決めるが、報道機関が民主主義に必要な情報を提供するのとは性質が異なるという。ソーシャルメディアは「歪んだ鏡」とも言われ、少数の極端な声が炎上やトレンドを通じて大きく可視化され、社会の実像のように見えてしまう。アテンション・エコノミーの構造により、誤情報や陰謀論が拡散しやすく、怒りなど負の感情が注目を集めやすい。結果として誤情報から利益を得る構造が生まれ、正確な情報を出すインセンティブが失われている。真面目な調査報道よりも、誤情報や陰謀論を流す方が「いいね」を稼ぎやすいという現状が課題だと指摘した。
選挙とアテンション・エコノミー
兵庫県知事選で、立花孝志氏の動画や切り抜きがYouTubeで圧倒的な再生数を稼ぎ、他のニュースチャンネルを凌駕した点を例示。報道の空白や極端な主張が再生数を稼ぐアテンション・エコノミーの構造が背景にある。また東京大学の研究によれば、ショート動画より長尺動画の方が選挙関連で再生数を伸ばしており、伝統メディアの公式チャンネルが苦戦しているのは単なるショート動画不足ではないことも示しているという。
アテンション・エコノミーの起源は新聞で、その後ラジオやテレビの視聴率競争へ広がり、現在はインターネットへ。「参入障壁が低いため誰でもコンテンツを作れるようになり、生成AIの登場で刺激的なコンテンツはさらに増え競争は激化した」という。ネットにはガバナンスなどの十分な仕組みがなく、思想の自由や熟考の機会が失われる危険があり、「静寂や熟考の機会がなければ思想の自由は空虚なものに成り下がる」とするアメリカの判例を紹介した。
放送局や新聞社はアテンション・エコノミーから距離を取り、信頼性の高い情報をどう維持・流通させるかが使命となる。具体的には、信頼性の高い情報を目立たせる施策(プロミネンス)や、広告主に対して「自分の広告がどんなコンテンツに出ているかをもっと気にせよ」と促すガイダンスが重要。広告主がソーシャルメディア上の誤情報やヘイトスピーチに無関心である状況は改善されるべきだとした。
基調講演を受けて参加局との間で「切り抜き動画の拡散と誤情報への対応」や「SNS規制の必要性」をめぐる意見交換が行われた。参加者からは「切り抜き動画が拡散され、選挙報道のアプローチが難しい。結局は地上波とネットで正確な情報を発信し、誤情報があれば訂正するしかないのでは」や「公職選挙法は形骸化し、正直者が馬鹿を見る状況。SNS規制を政治家が真剣に考えないと解決しない」などの質問があった。
水谷委員は「規制は内容次第。公平性原則の義務付けは表現の自由の観点から難しい。実名制も万能ではなく、必要なのは情報の成分表示や偽情報に広告収益が流れる環境の是正。広告主や教育も含めた取り組みが不可欠」と応じた。また高田委員長代行は「ネット上の表現はプラットフォームやSNS事業者が一方的に規制すべきではない。匿名性は重大な権利。規制は国家に利用される危険がある」と規制論については反対。一方で「安易なSNS言論との差別化を図るため、なぜ報道するのかといった理由説明と取材プロセスの可視化が重要」とオープンでフェアな報道が必要だと提言した。
また、小町谷委員長から、参院選の選挙報道で注目された「量的公平性から質的公平性」への転換について説明があった。2017年2月にBPOが公表した「2016年の選挙をめぐるテレビ報道についての意見」では、2016年参院選で放送局が量的公平性に過度に配慮していたことや公職選挙法が「事実に基づき編集する自由」を保障しているにもかかわらず、放送局の認識が不十分である点を懸念。そこで①編集準則は倫理規定であることの再確認、②公職選挙法に基づく編集の自由の周知、③量的公平性と質的公平性の整理、の3点を提示した。小町谷委員長は、「この立場は現在も有効であり、選挙報道の充実に資するものと考えている」と述べた。
続いて、第2部は「番組と広告~『熱狂マニアさん!』から見えた考査と識別の重要性」をテーマに高田委員長代行(東京都市大学教授)が解説。BPOは2025年7月、TBSテレビ『熱狂マニアさん!』に対し、放送倫理違反があったとする意見書を公表した。この事例は、番組と広告をどのように考査し、識別していくべきかという課題を投げかけ、視聴者の信頼を守るためには、番組と広告の境界を明確にすることが不可欠であるとしている。担当した高田委員長代行が意見書を解説する。
『熱狂マニアさん!』は「熱狂的なマニアを発掘し、その愛を語ってもらうバラエティー番組」。事案は2024年10月19日放送の2時間特番『X社マニア集結!1万点からベスト3…名もなき家事が今夜消滅!』の放送回。番組全編がX社特集となり、7人のマニアが登場し、中心となった4人が47点の商品を紹介した。
テロップには商品名、税込価格、配送料、在庫状況まで表示され、出演者は「即買いに行きたい」「絶対X社に行きたい」と発言。冒頭でX社を含む3社の企業名が提供スポンサーとしてテロップで表示された際には、スタジオのマニアたちが「X社」と連呼する映像が使われ、画面には常時X社のロゴが表示された。さらに本編直後にはX社のCMが続けて放送され、番組内には「X社にひと言」や「買う/買わない判定」コーナーも設けられ、ほとんどが「買う」と判定された。結果として、番組全体が企業宣伝のような構成となっていた。委員会は「スポンサーの意向に沿って制作されていると受け取られれば、放送局への信頼は低下する」と結論づけた。スポンサーの意向を優先した番組だと視聴者に思われること自体が危険であり、放送に携わる者はその点を再考すべきだとした。
意見書で指摘した3点
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識別の甘さとして、番組は価格や注文情報まで表示し、番組と広告の境界認識が不十分であったこと。
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X社がスポンサーであることが営業から制作に正しく伝わっておらず、本編直後にCMが流れる事態となった。
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考査は2回行われたが、完パケ全体を精査する仕組みがなく、ロゴ常時表示や詳細テロップが見逃され、考査が「最後の砦」として機能しなかった、などをあげた。民放連の留意事項(2017年公表)は「意図がなくても誤解されてはいけない」と強調している。広告と誤解されないためには、①番組で取り扱う理由が明確であるか、②一方的なPRになっていないか、③企業側の協力を得ている場合はその旨を説明しているかなどが判断基準となると説明した。そのうえで「民放には公共性があり、広告と誤解されれば番組価値も広告価値も下がる。スポンサーの意向に左右されていると受け取られたら、放送局への信頼は失われる。だからこそ識別を徹底し、誤解されない番組を制作する必要がある」と話した。
参加者からは、営業から持ち込まれるテレショップ的番組を拒否した事例やスポンサー提供のインフォマーシャルを「広告」と判断し放送不可にしたこと。スポンサー要望を取り入れつつ番組価値を高める工夫を意識していることなど、広告と番組の境目を意識しながら、時に持ち込み番組を謝絶した事例などが報告された。
高田委員長代行は「テレビが金銭で動くと思われるのは危険。視聴者に説明できるかが全て」と答えた。
また2つのテーマとは別にそのほかのテーマとして「記者の安全と誹謗中傷問題」について参加者から発言。報道現場の記者がSNSで個人情報や写真をさらされ、中傷や差別に苦しみ辞職や休職に追い込まれる実態を説明。公共性と公平性を担う報道が匿名攻撃にさらされ、若手記者が委縮し志望者も減少している現状をBPOに理解してほしいと訴えた。
これを受けて岸本委員長代行は「被害に遭った人がすぐ相談できる局内の仕組みづくりと、局単独の経験値では限界があるため横断的な対応体制を強化すべきだ」とする意見を紹介。小町谷委員長は「記者を守る姿勢がなければ人材が辞める。弁護士を組み込んだ体制づくりが有効。こういった問題自体を報道すべき」と話した。また高田委員長代行は、新聞社時代の経験から「現場を守る姿勢を上層部が日常的に示すことが重要」。水谷委員は「誹謗中傷対策は慎重な制度設計が必要。プラットフォームの免責見直しも検討すべき」とそれぞれ語った。
小町谷委員長は「地域局ならではの独自制作の可能性」を示唆し、意見書が番組作りの参考になればと述べた。幹事社から「BPOをよき相談相手と感じた」との挨拶があった。
最後に地元局の幹事社を務めた静岡放送の編成業務局・アナウンスマイスターの野路毅彦さんから閉会の挨拶。山梨県からの参加局に対し、時間をかけての出席に謝意を表した後「皆さまのお話を伺い、私たちの職場は優先順位があらかじめ決まっている単純な場ではなく、迷ったり悩んだり、ときにははみ出すこともあるのだと改めて感じました。これまではBPOを『生徒指導の先生のように叱る存在』と思っていましたが、こうして直接意見交換をすると『よき相談相手』という印象を強く持ちました。」と結んだ。
以上


